ヨハネ受難曲、BWV245(1724-29年頃作曲、1746/49年改作)
新約聖書「ヨハネによる福音書」の18-19章のイエスの受難を題材にした受難曲。1724年4月7日の初演である。この日はバッハがライプツィヒのトーマス・カントルに着任して初めて迎える聖金曜日である。ライプツィヒでは四旬節から復活祭までの40日間、教会でのカンタータ演奏をはじめとして歌舞音曲を自粛し、厳粛な態度で復活祭を迎える習慣があった。バッハもこの年の2月13日の礼拝を最後に、カンタータの作曲を休止して受難曲の作曲に充てた。ただし、1717年頃に亡失した受難曲を作曲していた可能性が強く、このヨハネが受難曲1号であるとする旧来の説は揺らぎつつある。
その後、少なくとも1725年、1732年頃、1749年の3回、ヨハネを改訂しつつ再演している。また1739年に実施されなかった再演に備えた改訂稿も存在する。現在の演奏はもっぱら1749年稿で行われる。1725年稿が大改訂稿であるが、1732年稿ではほぼ初稿に近い状態にリセットされており、1739年稿はさらに初稿に近づき、1749年稿は大部分が初稿の丸写しというふうに、時代が新しくなるにつれて原点回帰する不思議な改訂の経緯をたどっている。