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Beginning of the New Legend / ARK STORM
さいたまの仙人 ★★★ (2009-04-14 03:13:00)
前作では日本国内最高レベルの様式美を提示しながらも、ボーカルがボーカルだったせいで
今一つ盛り上がりに欠けた感が無きにしも非ずだったが、今回はそれを払拭するかのごとく大幅なメンバーチェンジを敢行。
ボーカルを佐々井康雄(ex.Sabel Tiger、Shy Blue)、ベースを瀧田イサム(from 六三四)、
ドラムは長井“Val"一郎(ex.Concerto Moon)がそれぞれ加入し、およそ同じバンドとは思えない程の戦力補充と
サウンドプロダクションの向上も相俟って凄まじい変貌を遂げている。
無論のことギターは前回同様のテクニックを惜しげもなく披瀝し、ベースはクリス・スクワイアのようにうねり回り、
ドラムも前任程ではないものの堂々としたツーバスドラミングでリズムを支えている。が、キーボードは何故か本作のみゲスト扱いになっており、
ソロパートが少なくなっている。
が、本作の最大のキモはボーカルだろう。様式美界隈には尾崎隆雄や下山武徳、そして前任の今西洋明など
ダーティな声質の持ち主が多かったが、佐々井は珍しいクリーンな歌声の持ち主で、様式美サウンドに花を添えている。
日本では松本龍以(ex.Wolf)やAnthem再結成後の坂本英三以来の逸材だろう。
さて、ここまで現編成による進化点を書いてみた。上のお六方の意見の通り、佐々井を批判する声はネット上でも殆ど見受けられない。
それは彼がシーン随一の実力を持っているからである、と見てほぼ間違いはないだろう。
僕は日本でも稀有だろう(過剰な自負か?)今西ファンとして敢えて書くが、「佐々井加入により表現は進化(深化)したが、裾野は狭まった」と考えている。
その最大にして唯一の理由は歌メロである。佐々井の今作の最高点は#2のサビだと思う(ツッコミ歓迎)が、明らかに裏返していることが分かる。
この時点でHiEである。前作#2は佐々井はキーを下げて演奏されたとしつこく書いているのだが、それを鑑みるとここか、あと1音程が最高点と考えられる。
前任の今西は前作#6にて最高点HiGまで出しているし、なおかつLuciferのデモテープではHiHiAまで出した曲もある(機会があればLuciferも取り上げたい)
無論、二人はボーカルとしてのタイプが違う。今西は明らかに瞬発力でハイトーンを出すシャウターであるし、
佐々井はソロタイムの絶唱でも分かるように、ロニータイプの歌い手である。
先述の「ここか~考えられる」について、一見無根拠で突飛なようだが、現に今のArk Stormの曲を聴けば分かる。
歌メロを作っているのが佐々井か太田かはともかく(佐々井なら歌いやすい音域で作るだろうし、太田なら佐々井の限界点を見極めながら作るはずだ)としても、
佐々井の歌唱はShy BlueやAlhambraのゲスト参加ではもっと中音域を多用しており(話し声も聴く限り、最も自然なのだろう)
Ark Stormでは既にシャープ気味なのである。
こうしたことから、僕は佐々井という人はイングヴェイにとってのマイク・ヴェセーラやドゥギー・ホワイトのような位置の人なのだと考えている。
マーク・ボールズでない所がミソである。
無論、だからと言って佐々井は不適格だとは思わないし、イングヴェイがマイクやドゥギーとともに多くの佳曲を書いてきたことと同様、
本作も佳曲と呼ぶには些かもったいなさを感じる曲は多い。
だがイングヴェイは最高のボーカルとしてマークを選んだ。それは彼がマークにしか持ち得ない武器を使うことが
名曲を作る道であることを確信し、そのように名盤「Alchemy」を製作したからだ。
僕は上の方の「カツのやりたい事を表現出来る逸材」という意見には反対する。やりたいことが実現できるなら前作のマテリアルは
容易にリメイク出来るだろうし(よもや版権の拘束はないと思うが……)、何よりキーを下げて演奏する意味がない。
ここに、太田カツが追求するイングヴェイ型ネオクラシカルへの障壁とも言えるものが存在している。
つまり、佐々井では「Trilogy」を、「Alchemy」を製作できないのではないだろうか。
そしてそのことは本当の意味でネオクラシカルメタルを極める上で、果たして看過できる問題なのか、と言うことである。
挑発的な言い方をすると、「イングヴェイよりイングヴェイらしい人間が『Seventh Sign』程度しか製作できないのか」、と言うことに繋がってくる。
こういう所が次作でメロパワ方面へ舵を切った一つの要因になったのではないか、と思ったりするのである。

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