この曲を聴け!
Dirt / ALICE IN CHAINS
絶叫者ヨハネ ★★ (2005-12-04 02:45:00)
どう聴いてもメタルなのに、何故にいまだにグランジ扱いなのでしょう? こんなにポップでカラフル、わかりやすいグランジがあるでしょうか? メディアが勝手に付けたくくりをあまり信用してはいけません、これはメロディアスでグルーヴィな病気系へヴィ・アート・サイケデリック・メタルです。昔かたぎのメタルファンの神経を刺激するかの三悪要素、汚らしい音色、ジメッと煙たい雰囲気、しまりのないリズムのいずれもありませんので、私みたいにNirvana系がまったくダメな人でもぜんぜんOKです。
サイケといってもカテドラルのような地の底で重く這いずるような粘着感はなく、案外キレがいい感じです。なによりドロドロベタベタした感じがないのがうれしい所で、泥沼の中をビチャビチャ跳ね回るのではなく、ムンクの叫び系の歪んだ空間を聴かせます。よくブラックサバスが引き合いに出されますが、この歪んだポップ感とドラッグ系アートな感触はまるで超へヴィになったピンクフロイドといってもいいかもしれません。リズムこそ緩めですが、リフやメロディなど楽曲の基本構造が非常に硬くがっちりしているため、「うねる」というより硬質な物体が「ひずむ」または硬くて重いボールが「弾む」といった方が適当です。どなたかご指摘なされていたように、Iron Maidenのベースとグルーヴが好きな人にはこれはたいへんなじみやすいのでは?
ギターもノイジーな金属残響音を伸ばす感じの音で、耳障りなザクザクしたエッジがほとんど聞こえません。メロディもじつにポップ……いや、メロディというより一音一音の響きが非常に鮮やかで、ポップな感覚があります。どうもこのバンドのソングライターは、天性のポップ耳の持ち主のようで、心理的に非常に耳に残りやすい音の響きを知っているような気がします。他のバンドの音に比べ、一音一音の響きがほとんどどぎついまでに濃密で厚みがあり色彩感に富んでいるのがよくわかります。へヴィな曲も凄いですが、アコースティックの使い方も抜群で雰囲気の作り方が非常に上手いです。音だけで完全に自分たちの空間が作れる稀有なバンドであり、歪み切った空の下、毒々しいまでに美しい花々が咲き乱れる異次元の森で生れたままのアリスと戯れるような病的で芸術的な世界観があります。
極彩色の濁流がゴーゴーと大渦を巻くさなか、渦の中心から聞こえてくるのは酔っ払った坊主が適当にお経を読んでいるような異様な歌声です。メロディアスでキャッチーな歌ですが、いかにも人工着色料たっぷりといった感じで、オレンジジュースの素とか色つきキャンデーのようにものすごく身体に悪いものが一杯入ってそうです。爽快感などというものはひとかけらもありません。聴いてるだけで病気になりそうなサウンドです。本当は死ぬほど暗くて憂鬱なのに、アッパー系のお薬(合法・非合法どちらでも可)のおかげでむりやり明るくされたみたいな悲惨な陽気さが怖いです。故レイン氏は時にやる気なさげに、時に世間に悪態つきつつ、時にゴァラーと恫喝口調でひたすらマントラを唱えていらっしゃいますが、溺れ死ぬ寸前のような力尽きた感じが漂ってくるのがなんとも胸を衝きます。夜中に大音量のヘッドホンで聴き、迷子のアリスを追いかけてあちらの世界へ飛んでいきましょう。
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