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失恋船長 (2018-08-03 20:46:45)
終戦記念日も近い8月になると必ず鑑賞する映画がある。それは原一男が撮影したドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』。
終戦後ニューギニアから帰国した独立工兵隊第36連隊のウェワク残留隊、奥崎謙三の活動をとうして戦争における影の部分をあぶりだす傑作ドキュメンタリー作。
奥崎氏の正義とは呼べない壮絶な過去とキャラの強さに圧倒されるというか、不謹慎だが笑えてしまうのだが、とにかく圧倒的な画力で2時間をブッ飛ばす構成に、何度見ても疲弊してしまい必ず一度は中断しながら見るのだが、それはテンポが悪いとかつまらないとかが理由ではない。余りのもテーマが重いのだ。
序盤における奥崎氏の挨拶程度のキャラ紹介などニヤけることも出来るが、本筋に入るともはやカオスを擁する世界にグイグイと引き込まれる。奥崎氏の追求はけして正義とは呼べないかもしれない、それでもなお、やらせも噛ませつつ真実を肉薄する瞬間のパワーは圧巻の一言だろう。もう目が離せなくなるのだ。

戦争体験がそうさせたのか本質がヤバいのかは分からないが、天皇を徹底的に糾弾する姿勢。そして戦争へと導いた日本へ独自のスタンスで唾を吐き続ける彼の姿は異形だ。

この物語で語られるのは、戦後生きながらえた部隊の中で行われた処刑に端を発する。処刑された2名は戦後、病死と遺族に伝えられたが真実は違う。二人は同じ部隊の日本人の手によって射殺されたのだ。しかも終戦後23日もたってである。なぜ2名の軍人は射殺されたのか、その命令を下したのは誰のか?そして命令に従い手を汚し生きて帰ってきた仲間たちに、奥崎氏は、とても容認できないような姿勢ではあるが、生き延びた兵隊達が隠し通したい暗部に迫る。

そして究極のオチと言えるラストに見たものはあんぐりとさせられるだろう。奥崎氏ってなんだったんだと…。

このドキュメンタリーのもう一つの核は軍部の命令によって同胞をも無残にも殺さなければいけない上下関係。命令は絶対、やらなければ自分がやられる。
そして、過酷なニューギニア戦線での真実。1万を超える敵兵囲まれた日本軍は、どのようにして生き延びたのか?食糧事情はどうだったのだろう。
生き残った兵士たちの口から語られる真実。原住民の事を黒豚と呼び、敵兵及び日本兵を白豚と呼んだ。
そう彼らは、今日の食事は黒豚なのか白豚なのかと、生きながらえる為に手を血で染める。当時の日本軍がどれほど人命を軽視し無謀な作戦を繰り広げていたかが容易に想像できる。

そして食事をとらず弱っていくものや、カリバニズムという秘密を共有出来ない嫌われ者、階級が低いものなどが白豚となり死んでいった。

上意下達、今なお日本では根強く信仰される精神学。この先、100年たっても変わらないだろう。

上司の命令を背けば、そこにあるのは死。まさに喰うか喰われるか、このドキュメンタリー作は、生半可な気持ちを許さない作品である。

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