この曲を聴け! 

鬼子母神 / 陰陽座
Usher-to-the-ETHER ★★★ (2012-01-06 20:02:19)
2011年発表の10th。
瞬火氏の執筆した脚本「絶界の鬼子母神」を下敷きにしたコンセプトアルバム。

私はこの作品、何度か聴いてから脚本を読む…という楽しみ方をしましたが、まず言いたいのはアルバム単品でも素晴らしい…という事ですね。明確なコンセプトがあるぶん、恒例の明るいエンディング曲がなく、お祭り曲がアルバム半ばに入っていたり、全体的に仄暗いムードで統一されている感じがしたりはしますが、音自体はキャッチーに疾走するキラーあり、美しいバラードあり、おどろおどろしい雰囲気の曲もありで、いつもの陰陽座のアルバムとして違和感なく聴けるようになってますね。

路線的には、お祭り曲の「鬼拵ノ唄」を除けばあからさまな和メロは少なめで、堅実なクオリティがあり前作の延長線上とも言えますが…音の説得力が前作よりも明らかに上がってると思う。特に「産衣」「膾」辺りは、歌メロは派手とは言えないものの、鬼気迫るような表現力のお陰で初期のクサい歌メロの曲(「陰陽師」「桜花の理」辺り)以上に魅力的に聴こえる。この手のバンドにはまず歌メロのインパクトを求める嗜好の私が聴いてですら、そう思わせる説得力。

アルバムの構成としては、脚本における各シーンをそれぞれ楽曲で表現していく…という手法で、脚本を読んでから聴くとストーリーが分かるだけでなく、より曲を映像的に、臨場感を持って楽しむことが出来ますね。鬼の棲む山や村外れの洞穴の空気感、「鬼子母人」のカリスマ性や狂気などが音を通じてリアルに伝わってくる感じ。ただ脚本無しにはストーリーの構成が分かりづらい…というより分からないので、ブックレットに簡単な注釈くらいは載せても良かったかも。

脚本のストーリーも、思った以上に楽しめました。予備知識無しに「鬼拵ノ唄」を聴いたときは、「客人(マレビト)を贄にして豊作や繁栄を願う儀式なんて、和風ホラーではありがちだよな…」と思ってナメてたんですが(笑)、実際読むとそれが行われ、続けられる理由づけが物語の大きな伏線になってて、読み物としてもかなり楽しめました。この辺り語りすぎるとネタバレになるので辛いです(笑)。…ただ、主役にしろ敵役にしろ、どの人も瞬火さんの分身みたいな印象があります…当たり前と言えば当たり前ではありますけど。

リキの入った作品であり、陰陽座のディスコグラフィーの中でも圧倒的な存在感を放つであろうアルバムだと思います。ただ、ここまでガチガチなコンセプトアルバムやってこの安定感というのは、個人的には良くも悪くもあるんですよね。この作品を聴いて、このバンドに180度予想を裏切るような音楽は期待できないと確信してしまったというか…ただ同様に、期待を裏切らないクオリティのものを常に届けるバンドである事も、同時に確信したわけではありますが。

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