この曲を聴け! 

DUM SPIRO SPERO / DIR EN GREY
Usher-to-the-ETHER ★★★ (2011-08-05 22:36:33)
個人的な印象では、「前作を超えた作品」ではなく、前作とは異なる方向を向き、かつ前作よりも深い位置に行ってくれた作品という感じですね。

前作は、「どす黒い靄に包まれるような音で、聴き込むうちにその靄が聴き手の中で形を成していくような作品」というイメージだったんですが、今作を初めて聴いたときは「神や魔のような、自分の感覚を超えた超常的ななにかが、遠くに存在する気配がする」というイメージでした。つまり、前作では最初から音に対して「当事者」として接する事が出来た感じでしたが、今回は行き過ぎてて最初は(物凄い作品である事は分かるけど)何がなんだか…というでしたね(笑)。

前作では演奏にしろヴォーカルワークにしろ、直接的に攻撃性や叙情性を描く場面も多かった感じですが、今作は全ての音が1つの情景を描いているような感じで、パッと聴きでのキャッチーさは減退している印象。特に顕著なのが冒頭の「狂骨の鳴り」~「The Blossoming Beelzebub」の流れで、初聴時こそ戸惑ったものの、気付けば繊細かつヘヴィなギターワークを含むアンサンブルと、それに呼応するヴォーカルワークと歌詞世界の紡ぎ出す、悪夢のような情景の虜になっていました。

今まで、特に初期のDIRはヴォーカルを立てるような曲作りをしてきていて、前作すらその傾向は残っていたように思うんですが、今作は全ての音が対等に鳴っていて、またそれでなければ表現できない世界観を描いていると思うんですよね。Dani Filth以上のキレを見せるホイッスル交じりの喚きや、ライブで曲の合間に演っていた「声を使った表現」を、更に進めたような、想像力に満ちた表現方法など、明らかにヴォーカルが進歩しているのに、こういった印象を覚えるほど、曲作りのほうも進化しているのではないでしょうか。

…こう書くと、分かりにくい作品に思えるのかもしれませんが…確かに、一度聴いただけでは全貌を把握できない深遠さはあると思います。しかし、シングル曲のサビにおける、V系出身ならではの歌謡的なキャッチネスに富んだメロ、「欲巣~」の曲芸じみた絶叫、「暁」の舟唄のような妙に耳に残る歌い回し、「Vanitas」のエモーショナルという言葉では片付けられない歌声など、音楽は歌しか聴いてないような非音楽ファンが聴いてすら、引っかかるであろうフックもあり、決して聴き手を突き放していないところが素晴らしい。

前作はよくOPETHが引き合いに出されたようですが、今作は安易に「OPETHを超えた」とはいいませんが、まっさらな状態でお互いの最新作を聴いて、より衝撃を与えられるのはDIRの今作であると思う。
例えば、昔のプログレだとか、ブルースベースのロックだとか、音楽誌などのオピニオンリーダー(うるさがたとも言う)にも受けが良さそうな要素を安易に、あからさまに導入することなく、自分達の音楽性を発展させている姿勢は、本当に尊敬できる。こうした想像力を持ったバンドが、国内外にもどれだけいるのだろうか…。
ちなみに、DIRはメタルかどうかについて論争があるようですが、私はメタルでいいと思う。だって、これだけ想像力に満ちた音も内包している、メタルというジャンルに対して誇りを持ちたいですもん。

…なんかめっちゃ褒めてるようですけど、実は私も通常盤を買ってます(笑)。いや、12600円って高すぎでしょう…。某所で中古品やアウトレットも合わせたら、ブラックメタルのCDが20枚くらい買えそうですもん。流石に、一枚にそこまでは出せませんね…羅刹国はめっちゃ聴きたかったですけど。ヌルいファンですみません(笑)。

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