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Into Glory Ride / MANOWAR
ゴリャートキン ★★ (2008-05-31 18:17:00)
前作「BATTLE HYMN」はラウドなロックンロール曲をメインに、ドラマティックな「Dark Avenger」「Battle Hymn」の2曲が色を添えた作品だった。
本作はその構成が逆転し、ロックンロールタイプなのは1曲目のみで、そのほかの曲はアルバム・ジャケットのイメージそのままの、狂気の見え隠れするダークで荘厳な正統派HMという方向性で統一されている。
そうしたドラマ性志向の楽曲群は、後の彼らの種々の名作秀作を生み出す基盤となった。
———だが果たして、それだけなのか・・・?
確かに本作に続く「HAIL TO ENGLAND」「SIGN OF THE HAMMER」の2作は、同じくドラマティックな正統派サウンドであり、しかして細部においては、よりメロディに磨きが掛かりキャッチーであり、曲構成も無駄なく、アルバムの流れにもダイナミズムがある。
では本作は、高きところを目指しながらもまだまだ試行段階であり、スタイルの確立という点では偉大ながらも質の点では後続作に一歩ゆずる・・・そんな作品なのだろうか。
違う見方はできないだろうか?
本作は、そう、キャッチーではない。だが、無愛想で殺伐としたサウンドこそバンド側は目指したのかも知れぬ。
疾走曲の少なさに加えてスローな曲の多さは、ある種の爽快感を殺いでいるが、その代わりに極めて特異な音世界の深みへと聴き手を沈める。
そうした特徴は、彼らの生んだ他の名作群では味わえないものだ。
俺とて、入門者には別のアルバムを勧めるだろう。
本作は後の彼らのアルバムの基礎とはなりつつも、異質な部分も多くある作品だから。
しかし異質であることこそ見逃せない部分でもあり、その異質な路線において、本作は極めて高い完成度を誇っていると思うのだ。
一つの要素はドゥームだろう。
名曲②「Secret of Steel」などは改めて聴き直して、米国のドゥームバンドSAINT VITUSを少し思い出した。
初めて聴いた時は「なんとツマラナイ曲…」としか思わなかった⑤「Hatred」はメタル史に残る強烈なスローソングだ!
エピック・ドゥームという言葉が頭をよぎるが、CANDLEMASSのような宗教っぽさは色薄く、刀剣や狼や馬や血や硝煙を連想させる音だ。
語弊を覚悟して言えば、ファンタジック・ドゥーム、ヒロイック・ドゥームとでもなろうか。
ブルーズやジャズの要素が極めて薄いドゥームの一展開として着目する人がいていいだろう。
また①「Warlord」の冒頭のあえぎ声は確かにナニだが、どうも歌詞の主人公が少女に夜這いでもかけていたようである。
それを発見した両親の「この子はまだ16なのよ!」という悲鳴のような声、逃げる足音。
そして最後は男の下卑た哄笑が入り、曲がスタートする。
なんとも悪漢、アウトローを象徴的に描き切った秀逸なロックンロールだ。
RIOTの「Hot For Love」のあえぎ声などは曲のクオリティを下げていると思ってしまう俺だが、この曲のこの演出は上手く出来ていると感じている。
他にも、歌詞はメタル賛歌ながらも超弩級ヘヴィリフのためにどう見ても死地に赴く戦士のことを歌っているように誤解してしまう③「Gloves of Metal」、本当はこっちが死地に赴く戦士を歌った④「Gates of Valhalla」の出だしの調べは冥府のBGMのようであり、本作屈指の名曲⑥「Revelation」のギャロップするリフは、神から遣わされた4人の血塗られた騎士達が地獄の門を突破し、サタンの首を掻っ切ろうと凍土を疾駆しているかのようであり、いったんエンディングを迎えそうになりつつも持ちこたえ、歌に戻っていくアレンジが素晴らしい。
ラストの大作⑦「March for Revenge」は「Battle Hymn」のパート2とも言えるスタイルで、最後の最後の狂暴な絶叫が実に見事にアルバムを締めくくる。
入門者には他のアルバムを勧めよう。
しかし本作にMANOWARの奥義が隠されている。
また、音楽を掛けることで自分の部屋を別の世界に塗り替えるような、そんな作品との出会いを望む人はいつかはこの作品に辿り着いてほしい。
もしその望む景色が、血と肉と骨とが足元を埋め尽くす修羅の世界なら是が非にでも。
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