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UROBOROS / DIR EN GREY
Usher-to-the-ETHER ★★★ (2008-11-12 21:06:00)
前作は「メタル方向に舵を切りすぎた」と思ったんですが、今作はメタルの方向を向いている事自体は変えず、より正しい方向へ舵を切ったアルバムだと思います。前作と比べると、メタリックな演奏とV系的美意識の関係性が、「相克」から「止揚」にレベルアップした感じといえばいいでしょうか。

V系の中でも生え抜きのグロテスクさに儚さを忍ばせたムードを大事にした作風は「Macabre」にも通じる物があると思うんですが、あの頃は歌や詩、メロディの比重が高かったのに対し、今作ではメタリックなアンサンブル全体でそうしたムードを醸し出しているように思います。OPETHや近年のENSLAVED辺りに影響を受けたようなダイナミックかつプログレッシブなリフ捌きが聴けるパートや、V系出身のバンドよりもデス/ブラック由来のプログレメタル聴いてるのに近い感覚を覚えるパートなどもあり、表面的なアグレッションこそ減退したものの、メタルとしては前作より上だと思います。

V系王道の歌謡的メロやアグレッション一本で押し切る曲、A→B→サビのポップス的展開等がほぼ排されたせいで、多少難解になった感はありますが、その代わり抽象的なムードは今までにない程高まってますね。一回目聴いた後は、具体的なイメージではなく、何かどす黒い靄のような物が残る感じ。その後聴くたびに、靄が晴れるというよりも、聴き手の中でその靄が少しずつ形を成していくような印象のアルバムになっているように感じました。

私は「理由」や「ザクロ」の具体的な物語があるからこその切なさ、「ZOMBOID」「惨劇の夜」の下世話なまでのグロさが好きだったので、今作の抽象的な表現に終始する詩は最初はあまり好きではなかったんですが、聴くうちにアルバムのムードの濃さを更に高めているように感じられ、これはこれで良いと思うように。まあ、正直感動したりはしないんですけど…。「Red Soil(赤土=神は赤土からアダムを作ったとされる)」のような宗教的なモチーフも違和感なく作風にはまってます。こういうモチーフ、前作のクラウザーさん節全開の作風の中でやったら、見事に上滑りしてただろうなぁ…(苦笑)。

シャウトの迫力に欠けるミックスや稚拙な英詩、歌詞カードを読みにくくする小細工など、前作で気になった箇所は直しながらも、叙情的なメロディや多彩な表現のヴォーカルなど美点はしっかり伸ばしてあるし、本当に良いアルバムだと思います。まあ、多用されるハイトーンは、凄くはあるけど彼の声の一番美味しい部分ではないように思えたり、低音のゲロデスが少し声量に欠け、少し無理してるように感じられたりといったアラも探せばある事はあるんですが、間違いなく傑作と断言出来るクオリティの作品に仕上がってると思います。

メタラーが聴いたらV系への偏見が多少なりとも薄れるだろうし、V系ファンが聴いたらここからOPETHやENSLAVED辺りのバンドを辿ってメタルの大海に漕ぎ出せると思う。両者にとって有益なアルバムが完成したと言えるのではないでしょうか。
しかし、V系って割と若年層に支持されてるサブジャンルだと思いますが…多感な時期にこういう抽象的なムードや、暗示に富んだアルバムを味わえる人は幸せだと思います。

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