この曲を聴け!
Moira / SOUND HORIZON
Usher-to-the-ETHER ★★★ (2008-09-03 15:41:00)
2008年発表の、メジャー4枚目となるフルアルバム。
…なんか、名作RPG「空の軌跡」のお金の単位みたいなアルバムタイトルですね(笑)。
描こうとする場面によって歌い手、語り手をスイッチさせていくスタイルは「Roman」や「聖戦のイベリア」で見せた路線と同じですが、明確なサビを持つ、ポップス寄りの構成の曲が多かった「Roman」とは対称的に、今作は「Chronicle 2nd」のミュージカル路線を更に押し進めた感じの作風になってますね。ただ、こちらの方が語りや寸劇の要素が曲のバックで流れるような感じになり、歌メロを食ってしまうと言うことがなかったり、全体的にクオリティがアップしていたり、より煮詰められているような印象です。
展開も転調を多用し、サビではなく曲全体で聞かせるようになった事や、歌メロも単に主旋律とハモりで聴かせるだけではなく、音域や声色の違うヴォーカルを絡ませて一つの旋律を織り上げていくようなものが増え、今までよりもスケールの大きな世界観を描く事に成功していると思います。ただ、そうしたアレンジにより、以前よりも少し分かりやすさは減退してしまいがちかもしれません。事実私も最初聴いた時は、何か凄いものに触れた実感はあっても、曲毎の印象は少し薄かったような気がします。
とは言っても、そんな問題は聴き込めばどうにでもなるものですし、1曲目に雑多なジャンルを詰め込みつつも分かりやすいダークさとキャッチーさで聴かせる曲、2曲目にハジけた語りを入れつつもロシア風の取っ付きやすいメロディで聴かせる曲と、愛想の良い曲をアタマに持ってきてから本編に入るという、聴き手を上手く引き込む構成や、ポップスどころかアニメソングでもなかなか無いレベルのクサい歌メロ、生楽器を多用した華美かつ絢爛、それでいて丁寧なアレンジなどによって、初聴であっても80分もの長丁場の間、リスナーをスピーカーの前から離れさせないパワーがある作品になっているのは流石というほかありません。
それでも敢えてアラを探すなら、相変わらず男性Voの人選は今一つ。前作でイマイチだったRevoさんのヴォーカルは、今回は作り声で歌ったりして結構頑張ってる感じなんですが、宇都宮隆さんのヴォーカルは浮いてる気が…。これだったら同人つながりで鼓太蝋さん辺りにオファー出したほうが良かったのでは。演じてるキャラと声もかなり合うと思いますし。
もう一つ、折角一つの芯が通った物語があるのに、人物名が明記されていなかったり、ギリシャ語で記されたり、変な所にこだわりがあるのは…凝っているというより、「ライトなリスナーに俺の物語を楽しんで欲しくない」「蒙昧なリスナーに俺が教養を付けてやるぜ」みたいな、思い上がった態度が透けて見えてしまう(妄想ともいう)のは残念。物語を無視してクサメロ詰め合わせ盤として聴いても恐ろしい破壊力がある辺り、名盤であるとは思うんですが、何かスノビズムを感じさせない工夫があるともっと良いと思います。
後は流通ですね。なんか値段の高い初回盤のみ仕入れてる店が多いんですけど…。店を幾つか回ってやっと安い方を買えましたが、これならちゃんと安い方も多く出回るようにするか、初回盤も通常盤と同じく、3000円前後で収まる値段にして欲しいです。店でCDを見つけたのにおあずけ喰らうのは、結構がっかりするので…。
そのコンセプチュアルでファンタジックな世界観や、シアトリカルな音楽性から時々批判の矢面に立たされる事もあるSOUND HORIZONですが、このアルバムを聴いて彼のメロディやアレンジのセンスまで否定する事が、果たして出来るでしょうか。最近、シンフォ系のアーティストでコンセプチュアルな世界観を打ち出すアーティストが増えてきているように思いますが、未だスケールの大きさ、メロディやアレンジのセンスではこのSOUND HORIZONが頂点にいる…聴いていて、そんな事を思い知らされた作品でした。
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