93年発表、SADISTのデビュー・アルバムは少なくとも、昨今のメロディック・デス界隈に全くない音である。 IRON MAIDENスタイルと言える北欧的哀愁はこのアルバムには一切ない。だが、北欧産のどのアルバムよりも、煌びやかで、気高く、情熱的な叙情性に満ち満ちている。デスメタルパートと同等、どころかそれ以上に、静かで落ち着いた叙情パートがアルバムを支配している。その対比のダイナミズムを過剰に煽り立てる多種多様なシンセ装飾の、「クラシカル」なのに「シンフォニック」でないという特異性。静も動も巧みにこなす3ピースアンサンブルと、一級のテクニックを駆使するTommy のギターワーク。ギターソロのおいて発散されるその気高い哀愁は、かのマイケル・アモットにも比肩すると言い切ってしまおう。 確かに、ボーカルに何の魅力もないし、音質もチープだ。だがそんな事とは無関係に、このアルバム・このバンドの音楽性を「誰も引き継げなかった」から、有象無象のデスメタル界に埋もれてしまったように思えて、悲しくなる。