今を去ることおよそ十年前のある日、店先でたまたま見かけた一枚のCD。 ジーンズを履いたミイラ人間が、悪魔を操り人形にしている奇怪なジャケ絵に、「魔力の刻印」なるものものしいタイトル、やけにリズミカルでインパクトのある「アイアンメイデン」なるバンド名。 「これは何かあるに違いない。是非買ってかえりなさい」 緑色の小悪魔が私の耳元でそうささやきました。 こういう偶然の成り行きで、Iron MaidenのNumber of The Beastを買ったのがメタル初体験というより、洋楽ロック初体験にして本格的な音楽人生のプロローグ。それまでたまにクラシックやゲーム音楽を聞くくらいで普通のロックやポップスには関心がなかったのにその日だけは何故か違いました。まわりにも音楽好きな人はいなかったのに。やはり運命の手引きによるものでしょうか。 ちなみにこのバンドがやっているような音楽を称して「メタル」と呼ぶ、というのは後で知りました(ついでに、やけに熱い解説を書いている伊藤正則なる男が何者なのか知ったのはさらにずっと後。) これと次に聴いたSomewhere in Timeで完全にMeidenの足元にひざまずく身になり、アルバムを聴きまくりました。十年前というとちょうどJ-POPやメロコアの全盛期で、メタルが冬の時代だったそうですが、私には黄金時代の到来、やれSpeedだイエモンだグリーンディだとのたまう級友たちにひとり「Iron Maidenという神のごとき素晴らしいバンドが……」と布教に励んでいました。 自然、他のHMバンドも聴き始め、やがてメタル以外のロックにも興味を持つようになり、どんどん聴く音楽の幅が広がっていきましたが、やはり自分の原点はこれ。